年賀状はお早めに。





『元旦に届くように、25日までに投函してください』

年末、郵便局は必死にアピールしてくれるのだが、そう言われても肝心のモノがなければ出しようもない。
「どうしよっかなぁー」
用意した年賀はがきを前に、晴日はここのところ毎日の習慣になっているため息を落とす。
普段は手紙なんて書かないし、メールでさえもどちらかというと不精な方だけど、年賀状だけは毎年出している。
中にはもうほとんど年賀状だけの付き合いになってるヤツもいるのだけど、「まだ俺はお前のこと忘れてないぞ」という 意思表示にもなっている気がして、なかなかやめることが出来ない。
とはいえ正直面倒であることには変わりないので、2年連続で返事が来なかったやつにはもう出さないと言う自分ルールもあるのだが。
とにかく、そんなわけで今年も迷わず年賀はがきは用意した。
誰に出すかも既にリストアップし、後は書くだけ。
それだけなのだが、ここにきて晴日はひとつの問題に気が付いた。
「殆どのヤツに言ってないんだよな」
母親の再婚による、苗字と住所の変更。
同じ高校や普段からまめに連絡取っている友人には当然言ってあるが、その他は全く伝えていない。
たまに会っても「晴日」と下の名前で呼ばれることの方が多いから、余計に言いそびれていた。
それに、十夜とのことでバタバタしていて完全に忘れていたというのもある。
別に隠しておきたいわけじゃないが、何だか今更のような気もするし・・・
「まだ悩んでるの?」
ふいに覗き込まれるように話しかけられて、思わずビクリと驚いてしまう。
「何だよ、十夜。おどかすなよ」
「別におどかすつもりはなかったんだけど。まだ書いてないのかなって思ったから」
学校も休みに入り、今日こそ書くと意気込んでいたわりに少しも進んでいない様子に、呆れ気味に言う。
「何も悩むことなんかないんじゃない?いちいち説明する義務もないんだし、普通に書けば」
「それはそうだけどさー。いいよな、お前は。名前変わってないし」
「それ以前に俺は出す相手なんていないけどね」
「お前、それは寂しすぎだろう・・・」
何でもないことのように、いや実際に本人にとっては何でもないことなのだろうけど、キッパリと言い切るのもどうかと思う。
十夜らしいといえば実にらしいのだけれど・・・
「ああ、でも今年は俺も出したよ」
「マジで?友だち?」
「いや、全然。お世話になっている人と、あとはむしろ気に食わないヤツだな」
「・・・不幸の手紙でも送ったんじゃないだろうな」
「そんなことしてないよ。きちんとした挨拶状だよ、挨拶状」
ただの挨拶状を気に食わないやつに出す物好きなんているのだろうか。
晴日はどうにも脱力感に襲われて、年賀状のことすらどうでも良くなってくる。
「とりあえず、適当に書くか。どうせもう元旦には届かないだろうけど」
「それが懸命だろうね。大体晴日は気にしすぎなんだよ。新しい家族が出来たって喜んでたくせに」
「うん・・・そうだよな」
十夜もたまには良いこと言ってくれるよな、なんてしみじみ思いながら十夜を見上げていると、不意打ちにキスされる。
「なっ、何すんだよ、いきなり・・・」
「好きな人から誘われたら、そりゃするでしょ」
「別に誘ってないだろ!てか、何いきなりやる気になってんだよ!?」
「そんな熱い目で見られたら仕方ないだろ?大丈夫、母さんたちならさっき買い物に出かけたから」
「そういう問題じゃなくてっ・・・俺は、今から年賀状書くんだから出てけよっ」
「いっそのこと、出さなくても良いんじゃない?そんなことより俺を構ってよ」
「そういうわけにはいかないの!おら、邪魔すんな。書き終わったら何でも付き合ってやるから!」
するりと服の中に入れられた手を跳ね除けて、晴日はきっぱりと言い渡す。
「ふーん・・・何でも、ね」
「あ、ちょっと待て、何でもは無理かも・・・」
大人しく身を引きながらも、どこか楽しそうに笑う十夜を見て、失言に気が付くが時すでに遅し。
「じゃあ年越しは俺の部屋で過ごそうね」
なんて満面の笑みを浮かべて出て行く十夜を止められる術など晴日にはなく。
結局、家族が31日の夜から初詣に出かけた隙に、言い様に鳴かされたのだった。



そして迎えた元旦。
「十夜!なんだよ、これはっ!!」
「何って、年賀状でしょ。俺から家族へ向けての」
その言葉に嘘はない。
だが、晴日と十夜がにこやかに寄り添って笑っている写真つきのコレは、明らかに家族へ向けた年賀状としては異質のものだ。
「それが何で「結婚しましたv」なんて書いてあんだよ!しかも何だよこの写真!どこで撮ったんだよ!!」
「だってほとんど事実でしょ。この辺でちゃんと言っておいた方が良いかなと思って。ちなみに写真は俺がちょっと加工して作った」
全く悪びれる様子もなく、さらりと言ってのける十夜が心底憎らしく思える。
せめてもの救いは、家族が「十夜くんも手の込んだ冗談をするのね」と笑っていたことだろうか。
正月早々、ご家族の皆様には楽しんでいただけたようで結構なことだけどっ。
どうにか晴日が冷静になろうと必死なときに、さらに追い討ちをかけるように十夜が言う。
「あと石田にも送っておいたから」
「・・・・・・は?」
「あいつには昨年お世話になったからな。ほんの挨拶だ。ああ、でもいきなり俺の名前だと不審に思われると思ったから、晴日の名前で送っておいたよ」
それはもう、見惚れるくらいの綺麗な笑みを浮かべる十夜に、晴日の思考回路はショート寸前。
出すのが遅かった本物の晴日が書いた年賀状が届くのは、早くても3日。
まさかとは思うけれど、石田が妙な勘違いをする可能性もなきにしもあらずで・・・・・・?
晴日が固まった次の瞬間、タイミングを計ったように携帯が音を立てて着信を告げる。
ディスプレイに表示されているのは、晴日にとって大切な親友の名前。
どうやって言い訳したものか・・・と思いつつ、通話ボタンに手を伸ばす。
楽しそうに微笑む十夜を見ながら、今年一年こんな感じで過ごすんじゃないだろうかと、晴日は何となく悲しい気持ちになったのだった。







07.01.01



  あけましておめでとうございます!
  新年早々何を書きたいのか分からなくなってきた話でしたが(否、書きたかったのは最後の段落部分なんですが)
  相変わらず甘さが足りない二人ですが、十夜にだって可愛いところがあるんだぞ!という気持ちを込めて
  書いてみました。こう、晴日に構って欲しいといった・・・ねぇ?(<自信薄)
  何はともあれ、皆様、今年もよろしくお願いいたします。






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