年越し電話





想い余って告白して、堂々と好きと言える身になって一ヶ月。
この想いを否定せず、今までと変わらない態度を取ってくれる津山さんには感謝してやまないけど。
変わらない態度は言葉通り。つれない態度も相変わらずだ。
「津山さん、一緒に初詣に行きませんか?」
「いいけど、行くなら3日以降な」
「えっ、何でですか?」
「お前は実家帰んないの?」
「まあ顔ぐらい出しますけど・・・それが何か?」
「俺はさ、正月は家で家族と迎える主義なんだ。これだけは就職してからも変わらなくてさー」
爽やかに笑う津山さんに当然無理強いなんてできないし、したところで来てくれないだろう。
一緒に年越し計画、一言で崩壊。
「じゃ、じゃあ3日の午後とかどうですか?」
「おう、それなら構わないぞ」
・・・ちゃっかり初詣の約束だけは取りつけてる自分が、ちょっとだけ逞しくなったと思ったり。
それでも、結局正月休みは1日しか会えないのだと悲しくなった。





「・・・何やってんだろ、俺」
仕事が休みに入って3日目の今日、大晦日。
実家には帰ってきたものの、特にやることもなく物置と化している自分の部屋でごろごろするばかり。
久しぶりに帰った実家、居間でテレビを見てれば「かさばるから邪魔」と追い出されるし・・・
かさばるようにこさえたのは誰だよと思うが、それを口に出す勇気もなくおとなしく部屋にこもる。
「津山さんは今頃家族団らんかなぁ・・・」
あれだけ家族を大切にしているのだから、きっと今頃は楽しい時間を過ごしているんだろう。
せめて電話で声を聞きたいが、せっかくの団らんを邪魔するのは申し訳ない。
「俺も一緒に過ごしたかったなぁ」
家族でも、もちろん恋人でもない自分には、逆立ちしても無理な願いだけど。
一週間前のクリスマスだって、一緒に過ごすことはできたが二人きりになることもできず。
会社の彼女がいない連中と集まって、ジングルベルならぬシングルベル会と称した徹夜での麻雀大会。
まったく色気も何もあったものじゃない。
まあ津山さんもいるというだけで、二つ返事で参加を希望した自分が言えたもんじゃないけれど・・・
携帯電話を手の中で遊ばせながら、思わず溜め息。
近づいたと思っても、電話一つできないほどに二人の距離はまだまだある。
それでも、こうして一人でいるときに考えることは、すべてが津山さんに繋がってしまう。
仕事だって正直辛くて、休日ともなれば嬉しくて仕方なかったのに、津山さんに会えないと思うと途端につまらなくなるのだ。
それほどまでに俺にとって大きな存在。
だからこそ、あまり強くも出れない。もし本気で嫌われたら・・・立ち直れないかもしれない。
「って、俺は中学生かなんかかい」
一人突っ込みも、空しさが膨らむだけ。
仕事が休みに入ってから3日。もう3日も顔を見ていない。
用もないのに津山さんから連絡が来るわけもなく、さらにたまには我慢も必要だとメールも電話もしないようにしていたから本当に丸々3日は存在すら感じられない。
「・・・メールくらいならいいかな」
忙しければ、返事もこないだろうし。電話に出てくれないより、マシな気がする。
勝手に一人で結論付けて、早速メールを送る。

『今年もお世話になりました。実家はどうですか?俺は津山さんに会えなくて寂しくて仕方ありません』

「年賀状の代わりみたいだよな、これじゃ」
実際は元旦に届くようにクリスマスには投函してるんだけど。津山さんの分だけだが。
「津山さんも少しは寂しいと思ってくれてたりなんか・・・しないか、やっぱ」
それにしても一人暮らしをはじめてから、随分と独り言が増えた気がする。
・・・実家に帰ってきたときまで、独り言なのも悲しいけれど。





「・・・返事来ないし」
メールを送ってから3時間。
年越しそばも食べ終えて、今年は残り30分。
肌身離さず持ち歩いた携帯に、着信の気配は全くない。
「あー、もう寝ちゃおうかなぁ」
不貞寝で年越し・・・なんて悲しい。
「それとも電話しちゃおうかなー。いや、でもそれはなー・・・」
うだうだ悩んで、携帯を開いては閉じて開いては閉じて・・・
その時きた着信は、その音が響き渡る前に、通話状態になってしまった。
「も、もしもしっ?」
『あー、遅くに悪ぃな。兄貴たちと飲み始めちゃったら、なかなか抜け出せなくてさ』
「津山さん!?」
こんなドラマみたいな展開に、思わず大声を出してしまって、慌てて声を抑える。
『メール気付かなくてごめんなー。部屋に置きっぱなしだったんだ』
「や、全然問題ないです!まさか電話してもらえるなんて思ってもいなかっただけで」
ずっと聞きたくてたまらなかった声。
いつもより少しだけやさしく感じる・・・って、笑い声?
「津山さん?もしかして・・・かなり酔ってます?」
『そーんなことないって。大して飲んでないもん。お前の方こそ、何だよあのメールは。そんなに俺が恋しいか?』
続くケラケラと笑う声・・・どう考えても、かなり酒が入っている。
「津山さんに会えなくて寂しいのは、ホントですよ」
『あー、まあ俺もお前に会えないのはちょっとつまらないかなぁ』
「えっ、ホントですか?」
『気が付いたらいつも一緒にいたからなー。兄貴たちと飲んでても、お前が側にいるような気すらしちゃってさ』
ああ、もう津山さん。そんなこと言われたら、俺、調子に乗っちゃいますよ?
「あーもうっ、津山さん大好きですーっ!!」
『はいはい。俺も好きだよ』
それが酔った勢いの、深い意味のない言葉だっていうくらいは分かっているけれど。
俺を有頂天にするには、十分すぎるものだ。

『お、日付変わったな。明けましておめでとう』
「おめでとうございます、今年もよろしくお願いします!」

一緒に過ごすことはできなくても、年越しの瞬間に声を聞けて、好きとまで言ってもらえて。
今年も良い年になるに違いない。
そう思いながら、もう少しだけと津山さんの声に酔いしれた。









 今年の年越し企画は、塚原×津山の大晦日です。
 この二人は何か酒が入らないと進展しないような気がしてきました。
 酒が入るとつい口が軽くなっちゃうものですからね。皆様もお酒はほどほどにv(笑)

 今年は後半開店休業状態で申し訳ありませんでした。
 まだまだ妄想はつきないので、見捨てず来年もよろしくお願いいたします。
 では皆様、良いお年を!



05.12.31




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