Each desire





情けないと分かっていても、他の方法も頼む当てもない。
「頼む、拓弥!代わりに恭平も首ねっこ捕まえてくるから!」
「そんなことしなくても恭ちゃんは来てくれると思うけど・・・誠一さんも大変だね」
6つも年下にしみじみと言われても、何も言い返せず苦笑しかできない。
それでもどうにか拓弥に了承を得て、誠一は第一関門突破と息をついた。





それから、次の日曜日の午後。
「恭ちゃん、水族館行こう!」
そんな拓弥の誘いを受けて、たまには外に出るのもよいかと腰を上げたのが3時間前。
「あれマグロかなー?」
「そうみたいですね。・・・マグロって見てると食べたくなりません?」
「あはは、確かに。お寿司食べたくなりますよねー」
・・・何でこんなことになってるんだ?
巨大な水槽を前に暢気に談笑している二人を見ながら、恭平は今日何度目か分からない溜息をつく。
今日は確か拓弥と二人、いわゆる水族館デートを楽しむはずだったのではないだろうか?
「いやぁ、拓坊はご機嫌だな。良かった良かった」
「・・・それは良いが、何で俺はお前と並んで歩かなきゃいけないんだよ」
今の状況の原因の大半を占めていると思われる男を睨みつければ、睨まれた誠一は肩を竦めながらも笑って返す。
「俺だって好んでお前と回ってるわけじゃねーって。仕方ないだろ?泰成が拓坊にくっついてんだから」
や、だから何でお前らがいるんだよ。

「何であなたがここにいるんですか?それに恭平さんまで・・・」
水族館の入り口近くで誠一に声をかけられ、そのすぐ後に会った宮崎は心底驚いた顔をして訊ねてきた。
こっちも驚いたが、誠一と拓弥を見ればそんな様子は全く見られず。
それどころか拓弥は気まずそうな顔を見せていた。
・・・つまり、誠一にはめられたということだろう。

仲良さそうに前を歩く二人に、段々腹が立ってくる。
・・・拓弥の恋人は、俺だよな・・・
何だかまた悲しくなって、俺は再び溜息をついた。



かなり苛ついてんなぁ・・・
魚を見るわけでもなく、不機嫌に隣を歩く恭平をちらりと見て、誠一は思う。
恭平の視線の先には、仲良く水槽を眺めている拓弥と泰成の姿。
まあ気持ちは分かるけどな。
分かるどころか、全く同じ気持ちだろう。
そもそも今日の計画だって、せっかく晴れて恋人になれたと言うのにいわゆるデートらしいことは拒否する泰成を引っ張りだすためのものだ。
照れてるだけだろうと分かってはいても、寂しいのは確かなわけで。
泰成はバイトの後輩である拓弥には甘いから、拓弥に協力を求めて誘い出してもらったのだ。
俺や恭平が来ることは内緒にしておいてもらって、急に時間が空いたからついてきたような形にして。
結果として、作戦は確かに成功したのだが。
・・・俺、拓坊にヤキモチ妬いたなんか初めてだな。
策士、策に溺れる。
そんなことわざが頭に浮かんで、誠一は苦笑するしかできなかった。



「ごめんね、宮崎さん。わざわざ付き合ってくれたのに・・・」
「拓弥くんが謝ることなんて、何もありませんよ。どうせ先輩の悪巧みでしょう?」
今更照れくさくて断り続けてた自分も悪いとは思うが、拓弥まで引っ張り出してくることが気に食わない。
もっと別の誘い方をしてくれれば、頷けるかもしれないのに。
素直じゃない自分を棚に上げて、つい八つ当たり気味に思う。
「あ、でも、僕はお邪魔じゃなかったですか?」
さっきから微妙に視線を後ろへ送っているのに、やっぱりどうせなら二人で来たかったんじゃないかと思う。
だが、訊けば予想に反してきょとんとした表情をされる。
「二人きりじゃなくても恭ちゃん来てくれたし。俺は宮崎さんも誠一さんも好きだから、全然邪魔なんかじゃないです」
むしろ嬉しいと言われるのに、やっぱり恭平さんに悪いことをしたかなと思う。
少しは邪魔に思ってくれと、きっと今ごろ思っていることだろう。
「あ、でも宮崎さんこそ誠一さんと二人の方が良かったですよね?ごめんなさい、気がつかなくて」
「ああ、そんなことは全然ないんで気にしないで下さい」
・・・別に、僕だって二人きりが嫌なわけじゃないんだけれど。
ただ、何となく恥ずかしいのだ。
特にこういう・・・「デート」という感じを意識させられるような場所だと。
「じゃあ、またみんなで来ましょうねー」
そう言って笑う拓弥くんが可愛くて、思わずその頭を撫でる。
瞬間、思い切り腕を引っ張られた。
「なっ・・・?」
「悪いけど、我慢の限界」
「あとは別行動な」
互いに相手に腕を取られ、そのまま別れることを余儀なくされた。



「恭ちゃん?」
突然引っ張られて、連れてこられたのは目立たないコーナー。
「頼むから、もう少し警戒心を持ってくれ」
開口と同時に言われたことの意味が分からなくて、しばし考える。
そして行き着いた考えに、首を傾げてしまう。
「・・・え、だって、相手は宮崎さんだよ?」
「それは分かってるけど。でも俺は気に食わないの!」
キッパリと言われるのに、ちょっとだけ驚く。
・・・でも、ちょっと嬉しいかも。
頬が緩むのは止められないまま、ふいっと横を向いている恭平に声をかける。
「えっと・・・ごめんね。せっかくの休みなのに・・・」
「それは別に構わない。拓弥は来たかったんだろ?」
「うん、それはそうだけど・・・誠一さんのこと、恭ちゃんに何も話してなかったし。今だって・・・」
「誠一の計画が気に入らなかっただけだ。あと宮崎もな。でも、もういないし、拓弥は何も気にしないで楽しめばいい。そしたら俺も楽しめるから」
「・・・うん、ありがと」
優しい言葉に笑顔で応えて、拓弥は再び視線を水槽に向けた。
「ま、お礼は帰ってからたっぷりもらうしな」
そうポツリと呟いた言葉は、幸か不幸か拓弥に届くことはなかった。



一方、誠一も恭平とは逆の方向へどんどんと進んでいく。
「ちょっ、何なんですか!?」
「そろそろさー、もう少し懐いてくれてもよいんじゃない?」
腕を振り払った瞬間、苦笑を浮かべながら告げてくる。
「まあ今日は無理やり引っ張りだしてきたわけだし、それは素直に謝るけど。俺としてはもう少しね、恋人気分を味わいたいわけですよ」
「・・・別に、あなたのことが嫌なわけじゃ・・・」
「うん、それは分かってる。ま、でも今日はもう帰るか。俺んちでも来る?」
どうして、いつも笑っていられるのだろう。
自分でも、素直になれない自分が嫌で仕方ないのに。
「泰成?」
「・・・もう少し、ここにいたい」
言った直後に、恥ずかしさが込み上げる。
「や、だって、せっかく入ったのに、もったいないし・・・」
慌てて言い訳をするが、時既に遅し。
目の前の男は、嬉しそうに笑っていた。
「じゃ、行こうか」
「って、手を繋ぐな、手をっ!」





それぞれの想いは違っても、やっぱり好きな人と一緒にいることは特別で。
たまにはこんな一日もよいかもしれない。
それぞれが、それぞれの想いとともにそう思いながら、一日の終わりを告げたのだった。







04.05.27




   とても難産でした・・・一度白紙に戻して書き直したくらいに!(ネタは同じままでしたが)
   そんな感じの半年記念・アンケート結果小説。ダブルデート編です。・・・デート?
   もっと色々書きたかったのですが、これ以上長くなるのもなんなので。てか、十分長いし(苦笑)
   それにしても私、誠一と恭平コンビはホントに好きだね(笑)

   何はともあれ、ありがとうございました♪





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