18:00  秋良と和宏の場合





「よしっ解散!」
「あっしたー!!」
部長の掛け声で、練習を終えた部員たちはわらわらと部室へと向かう。
「柘植ー、帰りマック寄ってくけどお前も来るだろ?」
「あ、悪ぃ。用があるからパス」
「何だよ、最近付き合い悪いな」
「悪ぃ、また誘ってくれ」
仲間たちは口々に文句を言うが、無理を言う奴らでないことは秋良自身が一番よく知っている。
だから一応は申し訳なさそうに謝っておくだけで、さっさと着替えて部室を後にした。




「和宏、お待たせー」
「あ、お疲れさま」
速攻で教室に向かうと、今日は珍しく和宏ひとりが出迎えてくれた。
いつもは何だかんだ言いながら渚がいるものだから、今日もそうだろうと勝手に思っていただけに、ちょっと拍子抜けする。
「あ、大塚さんなら今日は部活の人たちと帰るからって」
心を読んだかのようなタイミングで和宏が説明してくれる。
いや、別にいなけりゃいないで俺としては全然構わないんだけど。
慣れてしまってはいたけど、むしろいることの方がおかしいはずだ。
和宏の暇潰しに付き合ってくれるのはありがたいけど、和宏と待ち合わせしてるのはあくまでも俺なわけで。
「って、なんで和宏がそれ知ってるの?」
「さっきメールが来たんだ。今日は行けないから、ごめんって」
何でわざわざメールまで?と思うが、和宏の様子からしていつものことなのだろう。
気がつけばメールのやり取りまでしているなんて、やっぱり油断ならない女だ。
気にならないと言えば嘘になるが、それをグチグチ言うほど心の狭い男じゃあない。
まあ渚に関してはよく知っている友人だし・・・その分、気になるところもあるわけだが、いやいや。
「・・・いつも思ってたんだけどさ」
ひとり妄想にふけっていたら、帰り支度を終えた和宏が呟くように話しかけてきた。
「ん?」
「柘植は部活の人たちと帰ったりしなくて良いの?」
・・・予想外の発言に、しばしフリーズ。
えーと、それはつまり一緒に帰りたくないってことか?
「別に、今までも一緒じゃなかったし」
「よく帰りにどこか食べに行ってたりしてなかった?」
「あー・・・いや、でも恋人優先するのは当然じゃね?」
「今までの子たちは違ったよね」
切り替えしが、やたら早い。
付き合いだす前までは友人として一番側にいただけに、和宏は今までのことを知っているから、下手にごまかせない。
さっきまで部活でかいていたのとは違う汗がダラダラと流れるのを感じる。
待ってるのがやっぱりダルいとか・・・いつも待たせてばかりだもんな。
何の文句も言わず、当然のように待っていてくれるからついつい甘えていたけれど・・・2回に1回くらいにしようと言い出すべきか。
完全になくなるくらいなら、涙を飲んで・・・っ
「あ、あのさ、」
「柘植は友だちだって多いのに」
「・・・へ?」
「柘植と一緒にいられるのは嬉しいけど、他を蹴ってまでは嫌だよ」
口調はしっかりとしているわりに、目線は俯いたまま。
・・・・・・もしかしなくても、俺はまた何か勘違いしてるか?
「えーと。和宏は俺を待ってるのは嫌?」
「そんなことないよ。一緒に帰れるのは嬉しいし。待ってるのは全然苦じゃない」
「じゃあ何も問題ないじゃん」
「・・・・・・でも、それで柘植と友だちの関係が悪くなったりとか」
きっぱりと言い切ると、少しだけ困ったような表情で、ぽつりと呟く。
そんな顔も可愛いなぁなんて思っている俺は、真剣に俺のことを考えてくれている和宏に顔向けできないかもしれない。
でも嬉しいんだから、多少にやついてしまうのは仕方がないだろう。
「それくらいで悪くなるようなヤツとは、友だちになってないよ。それに、全然付き合ってないわけじゃないしね。和宏が心配するようなことはない」
和宏が先に帰ったときなんかは、今までどおり連れだって食べに行ったり遊んだりもしている。
もちろん、それも楽しいけれど、やっぱりこの時間には適わない。
部活でへとへとになっても、和宏が笑顔で「お疲れさま」なんて出迎えてくれれば、一気に疲れも飛ぶってもんだ。
「俺が、和宏と一緒に帰りたいから他の奴らの誘いを断っちゃうの。優先順位が断然和宏のが上なの。分かった?」
「・・・うん」

どうにか納得してくれたらしい和宏は、ようやくいつもと同じようにふわりと笑って頷いてくれた。
とにもかくにも、部活後の幸せな時間がなくならなかったことに、ホッと胸を撫で下ろす秋良だった。








08.11.13




   和宏は部活には入ってませんが、図書委員なので図書室にいることが多いです。
   何もない日は、教室で本を読んでたり、たまに窓から眺めてみたり。
   もちろん他に用事があるときは先に帰ります。 実は当初からある設定(笑)





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