12:00  佐野と二宮の場合





「お、美味そうな卵焼き」
いきなり背後から声がかかったと思ったら、にゅっと伸びてきた手が卵焼きをかっさらっていった。あ、と思ったときにはすでに口の中。
「ん、うまい」
「うまいじゃねーよ、人の弁当盗むな」
毎日のことで慣れてしまってはいるが、やはり文句は言っておかなきゃ気が済まない。
だが犯人である佐野は相変わらず悪びれる様子はなく、丁寧に飲み込んでから手を合わせる。ごちそうさまでした。
「だって二宮んちの弁当、うまいんだもん」
「そのセリフは聞き飽きた。大体、理由になってないし」
「まあまあ、俺とお前の仲じゃん」
「それも聞き飽きたし、理由になってない」
ちょっとキツく返したつもりなのだが、当の佐野は「ごちそうさま〜」と手を振って、さっさとどこかに消えていった。
「マジあいつ意味わかんね」
「まぁな。でも俺は見てて微笑ましいけどねぇ」
パンを頬張りながら完全に傍観者となっていた渋谷の言葉に、「どこが?」とツッコミを入れてしまう。
俺には憎らしいだけで、微笑ましいところなんて微塵も感じられない。
「んー、どこがっていうか全体的に?見慣れてきたからかな、お前らのやり取りが面白くて仕方ないんだよねー」
だから、どの辺が面白いんだよと思うが、面倒なので口にしないでおく。
「毎日何かしら食ってくもんな。もういっそ一緒に食べれば良いのに」
「冗談じゃねーよ。・・・そういやあいつはどこで食ってんだ?」
「さぁ?教室で食べてんの見たことないなぁ。購買でも行ってんのかね」
疑問には思っても特に本人に確かめることも面倒だからするはずもなく。
結局、佐野は昼休みになるたびにどこからか現れて、なにかしら一品奪ってはどこかに消えていくのが習慣になっていた。




「お、すごい。今日は唐揚げ入ってる」
「ちょっ、やるなんて言ってない!返せ!」
「もう食べちゃった。ん、今日もうまいね」
「ふざけんなよ、3個しか入ってないんだぞ!」
「小学生じゃないんだからマジでキレるなよ。ほら、俺の焼きそばパン一口やるから」
「渋谷〜お前はホントは良いヤツだよな。佐野もちょっとは見習え」
相変わらずなやり取りに苦笑する渋谷から、ありがたく一口パンをもらうと、横から手が伸びてきて取り上げられる。
「って、何でお前が食べてんだよ」
「二宮が食べたから」
「はぁ?」
勝手に食べたのは一口だけで、ご丁寧にも「ごちそうさま」なんて言いながら渋谷に返している。
対する渋谷は怒るどころか、笑みを浮かべて受け取っている。
「前から思ってたんだけどさー、もしかして俺はお邪魔虫かな?」
「そんなことないっ!」
「うん、ちょっと邪魔」
渋谷の呟きに、それぞれが真逆に反応する。
堪えきれなくなったらしい渋谷は吹き出し、パンを抱えたまま笑いまくっている。
「もうさ、お前ら素直に一緒に昼食えば良いじゃん」
渋谷の言うことはもっともなのだが、今さら習慣を変えるのも難しいわけで。
佐野との関係が変わった今でも、昼休みは佐野が弁当の一品を奪っていくというだけの繋がりだ。
「なんだったら、俺がどこか別んとこで食べても良いし?」
「ちょっ、渋谷?」
「それが本気だったら、俺はもう昼はちょっかい出さないよ」
本気で焦る俺と、教室では珍しい真面目な顔で言う佐野に、渋谷は再び吹き出した。
「あー、お前らマジ最高っ」
「二宮が友だち想いなの、一番知ってるのお前だろ」
「・・・そうだな。悪い、変なこと言った」
「それに、今のとこ俺はこの立ち位置が気に入ってるからね」
言うだけ言って、「ごちそうさま〜」と手を振って去っていく。
その姿がちょっとだけ寂しいとは、口が裂けても言えないけれど。
「結局、二宮の反応が楽しくて仕方がないってことなのかもなー」
だからどの辺が、と相も変わらないツッコミを入れながら食事を再開する。

結局、その後も佐野が何かしら一品奪っていく習慣は変わることなく、俺も母親に弁当を休まずに作ってもらえるよう頼むことになるのだった。






08.11.02




   多分、渋谷くん以外のクラスメートたちも、二人のやり取りを面白おかしく見ていると思います。
   そして、それを分かってやっている佐野と、分からないのに期待通りの反応しちゃう二宮。
   何やかんやで、クラスで愛されてる二人です(笑)





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