日曜日。 智と麻斗の場合 |
「―――・・・つまんない」 誰もいない部屋で呟いた声は、やたら大きな音となって自分の耳に返ってきた。 今日は日曜日。外は晴れ。 天気予報のおねーさんの話だと、一日中穏やかな気温だと言う。 これはまさしくお出掛け日和だと思うのに、麻斗は智の部屋にこもり、布団の中から天井のシミを眺めて時間を潰している。 肝心の部屋の主はと言えば、昨日急遽求められたと言うバイトへと出ていて、この場にはいない。 あのシミ、やっぱり手形に見えるよなぁ、なんてぼんやり思ってから携帯電話で時間を確認すると、表示は9時12分となっている。 もうすぐ智のバイトが終わる時間だ。 早朝のシフトだから、時間は5時から9時半だったか。何でそんな時間にやるのかと訊けば、朝は強いし時給も良いしとさらりと言われたのを思い出す。 だからって、何も今日いれなくたって良いじゃないか。 これで何度目になるかもう分からないほどの思いに、布団を頭からかぶってやる。 たまには遠出でもしようかと言い出したのは智の方だ。 滅多にない嬉しい提案に、麻斗は喜び快諾した。普段は行き当たりばったりだけど、珍しくここは行きたいとか計画まで立てたのに。 バイトだと聞かされ、ガックリとうなだれた麻斗に智は、 「10時には帰ってこれるから、部屋で待ってて」 ・・・なんて軽く言っていたけれど、早朝バイトの後に休まず遊びに行くのは辛いだろう。 自分と遊ぶためだけに無理はしてほしくない。 「―――・・・まあ、来ちゃったけどさ」 会えるなら会いたいのが本音で、何だかんだ言いながらも結局こうして部屋にいる。 しかも、早くても帰ってくるのは10時近くになってからと分かっているのに、朝の8時には家を出ていたという間抜けっぷりだ。 普段はどちらかというと、智が怒らないのを良いことに5分から10分は遅刻するっていうのに、今日みたいな日に限って早々に用意しちゃって。 そのくせ1人では何しててもつまんないから、布団に潜り込んでごろごろ。 カーテンから漏れる光は、眩しいくらい白く清清しい。 逆に自分はと言えば、電気もつけずに布団まで被って・・・ホント何してんだか。 とりあえず智が帰ってきたら、コンビニにでも行って一緒に遅い朝ごはん食べよう。 それから一休みして、午後から遠出は無理でもどこか出かけられたら良いな。 それから、あとは・・・――― 「ただいまー」 できるだけ静かに開けた扉の内側に、麻斗の靴が綺麗に並べられているのを見て、智は笑みを浮かべる。 返事がないのを確認してから、そろそろと部屋を進めば、ベッドの上で寝息をたてている麻斗を見つけた。 「予想通りだな」 投げ出された麻斗の右手の側には、携帯電話。 目覚ましが鳴った気配はあるが、よく見るとディスプレイにはバイブの表示がある。音が鳴らなければ、一度寝たら眠りが深い麻斗のことだ、起きることはないだろう。 「起こさないと後が怖いかなぁ」 待ってたのにとか、出かけたかったのにとか。 予想される文句を想像しながらも、智は眠る麻斗の隣へと身体を忍ばせる。 このまま出かけるのも何の問題もないけれど、休みなしでもきっと麻斗は膨れるに違いない。 「無理してもらっても、俺は全然嬉しくない!」 そう言って膨れたのは、徹夜明けで麻斗に会いに行ったときだったか。 あの日は結局、引っ張られるように部屋に帰ってきて、半ば無理やりベッドに横にさせられたんだった。 別に無理してるとか、そんなことは全然ないんだけれど、妙なところで頑固な麻斗は簡単には信じてくれないだろう。 昨日は10時には寝たし、6時間も睡眠を摂れば十分だ。 ・・・これも、8時間は寝ないと寝た気がしないという麻斗に理解してもらおうと言う方が無理か。 戯れに人差し指で頬を突付いてみるが、麻斗は小さな声を漏らすだけで起きる気配はない。 さて、どうしようかな。 読みかけの本を読んでしまうか、それともこの前借りたゲームを進めるか。 それとも、麻斗が言うようにちゃんと横になって休むか。 どうせ休むなら麻斗が側にいる方が良いな。麻斗は後で怒るだろうけれど、昼からでも十分出かけられるだろうから問題はないはずだ。 勝手にそう結論つけて、起こさないようにそうっと麻斗を腕に抱いて自分も目を瞑った。 目覚めた麻斗が驚きの声をあげるのは、太陽が真上に昇りきってからのこと。 07.10.28 なんかこの二人は、会話がない話が多いですね。いや、普段はもちろんちゃんとしてるはずですが(笑) まったりな休日。お互い学生なんで、日曜だから!って観念は少ないと思います。 出かけるのが面倒になって、結局部屋でのんびり過ごしちゃったりとかね(笑)そんな日曜日。 |