水曜日。 誠一×泰成の場合





「―――・・・また来たんですか」
「ご挨拶だなー。俺も一応お客さまなんだから、もちっと愛想良くしても良いんじゃね?」
「・・・そうですね、失礼いたしました。いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
「そーいうんじゃなくてさ・・・まあ、良いや。アメリカンよろしく」
客として扱えと言ったからか、完全に店員としての振る舞いのみで立ち去る泰成に苦笑いをするしかない。
再会してから大分たつと言うのに、相変わらず態度は変わらない。
そんなに嫌われてるのかねと思うが、姿を消されたくらいなんだからそうなんだろう。
見つけたのだって、本当に偶然だ。
拓弥がバイトを始めたと言うので、会社が早く終わった日に見に来てみれば、そこには長い間探しても見付けられなかった人の姿があった。
向けられる視線は穏やかなものではないけれど、一目見たさに通うようになってどれくらいたったか。
時間の許す限り来たいところだけど、そう何度もだと嫌がられそうで、結局は比較的仕事が早く終わる水曜日に寄る習慣となった。
ついでに拓弥の様子も見られるから、どこぞのおバカさんに報告もできる。まさに一石二鳥。

「はい、お待たせしましたー」
「サンキュ。そういやさ、ここのバイトって何曜日が誰って決まってんの?」
コーヒーを持ってきてくれた拓弥を捕まえて、実は結構気になっていたことを訊いてみる。
向こうの方で泰成がこっちを気にしているような気がするのは・・・自惚れすぎか?
「分かりやすいからみんな曜日毎に大体はしてるけど、一応はシフト制だよ。月末に次の希望出すの」
「じゃあ何曜日は嫌とかあれば変更可能なわけだ」
「うん、うまく代わり見つかればね。でも店長優しいから、大体の希望は聞いてくれちゃうかな」
てことは。少なくとも、週一の訪問は避けられていないと言うわけだ。
相変わらず態度は冷たいけれど、近くで見られるだけ今までの何倍もマシだ。
本音を言えば、何でいなくなったのか詰めよってでも聞きたいけれど、またいなくなってしまうかもと思うと正直怖くて動き出せない。
ならせめて、週に一度の楽しみくらいもらっても良いだろう。
そう結論つけて、ゆっくりとコーヒーを啜った。




「―――・・・暇なんですか?」
今日は電車の乗り継ぎもスムーズで、いつもより早くつけたと内心浮かれていたら、待っていたのはそんな挨拶。
「お前なー、いつも俺の話聞いてる?うちの会社、月に2回ノー残業デーがあんの。んで今日もそれだったわけ」
「いえ、それは分かってますけど。だったらなおのこと他に行くとこないのかなと」
本気で不思議そうな顔をしている泰成に、デコピンの1つでも食らわせたくなった俺に罪はないだろう。
週一の喫茶店通いは、泰成との距離が縮まった今でも続いている。
何のためって、それは少しでも泰成に会いたいがためなのだが、どうしてこいつには伝わらないのだろうか。
大体、仮にも恋人の仕事が比較的早く終わる曜日に欠かさずバイト入れてるってのは、どういう了見だって話だ。
―――・・・ホントにこいつ、俺のこと好きなのかね?
疑いたくなるのは、こんなとき。
確かめるのが怖いから、口に出したりはしないけれど。
「お待たせいたしました。・・・いつも思うんですけど、中途半端に食べる方が却ってお腹空きません?」
「んー、まぁな。でも、ここの結構うまいし、何も食わないで時間潰してるのも悪いっしょ」
泰成が上がる時間まで居座る気満々の俺は、いつも軽食を頼んで食べている。
それを早速一口いただきながら応えれば、「まあ、そうですけど」と返ってくる。
「うちでも食べるのに、よく食べるなぁと思って。あとで食べるのも軽い方が良いですか?」

―――・・・・・・あ、ヤバイ。

「先輩?」
「いや、泰成が作ってくれるもんなら何でも旨いし。普通に食べられるから平気」
何でこうも無意識に喜ばせてくれるんだか。
不思議そうにしながらも立ち去るまで、必死でにやけそうになる顔を抑えた自分を褒めてやりたい。
俺がしつこく居座るもんだから、バイト後に泰成の部屋に行って一緒に夕飯を食べるようになったのはいつ頃からだったか。
泰成の中でも、いつの間にか習慣になってるなんて、相当嬉しくて仕方ない。
これだから、この喫茶店通いは止められない。
きっと泰成がバイトをやめるまで続くのだろうと、堪え切れなくなって頬を緩ませながら思ったのだった。





07.10.31




   うちの会社のノー残業デーは月に2回、水曜日にあります。それを、まんま転用(笑)
   この二人も、なんかいつも同じようなことしてるよなぁと思いますが、それが日常なんで良いかなと。<そうか?
   ちょっとした幸せ探しをさせたら、誠一さんはトップクラスだと思います(笑)





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