土曜日。 省吾×真希の場合 |
一人での朝ごはんを済ませ、コーヒーを飲みながらのんびりしていると、玄関のカギがカチャリと開いた音が聞こえてきた。 「おっはよー」 語尾にハートマークでもついてそうな声音で現れた真希に、省吾は片眉をあげて迎える。 次いで思わず確かめてしまった時計を見ると、表示は8時半。 「ずいぶん早いな」 「そうでもないって。おじさんたちなんかもっと早く出てんだろ?」 「あの人たちは仕事だ」 省吾の両親は、業種で分けるならいわゆるサービス業に就いている。普段も忙しいが、土日ともなるとさらに大変らしく、出勤の時間も早くなる。 そのため小さい頃は、よく朝ごはんを真希の家で食べさせてもらっていたものだ。 あの頃から真希は寝坊助で、土日ですら起こすのは省吾の役目になっていた。 省吾が一人でも構わなくなった頃から、土日の真希は特に用事がなければ昼近くまで寝ているのが常となっていたのだが。 「今日はどこか出かけるのか?」 「んー、特に用事はねぇけど。省吾は出かけたいの?」 「いや、別に」 そういうことを訊きたかったわけではないのだが、言葉が足りないせいで、見当違いの応えが返ってくる。 「珍しくも早起きだから」 「おう、俺もビックリ。なんか目が覚めたからさ、省吾んとこ来た」 だから、なんでそういう流れになるのかが分からない。 もう一度訊こうと思ったが、適当な言葉が見つからない。 真希はといえば、勝手にテレビをつけてはチャンネルをいじっていたが、特に見たい番組がなかったのか電源を落としている。 「朝飯がパンだけって少なくね?」 「休みの日は、これで足りる」 「あー、まあ食いたくなったらすぐ何でも食えるもんな」 今度は勝手に棚を開けて、好きな菓子でも見つけたのか、「見っけ♪」と鼻歌交じりに出している。 いや、だからこんな話がしたいわけじゃないのだが。 どうにか話を続けてみようかと画策してみるが、次第に考えることも面倒になってくる。 まあ別に良いかと放棄したところで、実はさりげなく観察していたらしい真希が小さく笑い声をあげた。 その様子に、こいつは分かっていてわざとはぐらかしていたのだと知る。 そういえば昔から、真希にだけは言葉足らずでも言いたいことが伝わっていた。 気が付いたら腹立たしくて、睨み付けてやれば、まだ笑いながらも「悪い悪い」と謝ってくる。 「理由は単純なんだって。学校休みの日はさ、近くにいても嫌がんねぇじゃん?」 「・・・別に学校でも嫌がってはないが?」 「そうか?俺が近づくと、結構怖い顔してるぞ。特に会長とか木下先輩がいるとき。あ、宮田と話してるときもそうかも」 ・・・身に覚えがないとは言わないが、それは別に真希を嫌がっているわけではない。 明らかに自分たちを面白がってみている人間の前で、わざわざ話したくないと言うのが本音だ。 第一、学校では真希のまわりには誰かしらがいるのだ。 わざわざ、あの中に入っていきたいとも思わない。 「あ、別に構わないんだからな。朝ちゃんと起こして、連れてってくれるだけで十分」 眉間にシワでも寄っていたのか、真希が笑いながらパシリと叩いてくる。 別に嫌だと思っているわけじゃないと否定しようとしたが、それが言葉になる前に真希が話を続けてしまう。 「家に来ても嫌な顔しなくなったしさ。昔に戻ったみたいでさ、嬉しいじゃん」 「・・・そうか?」 「そうだよ。それにさ、たまには二人っきりでも過ごしたいじゃん。できたら一日中さ。したら俺んちかお前んちしかないだろ。せっかく早起きできたんだからな!」 何だその理屈はと思わなくもないが、偉そうにふんぞり返っているくせに耳はうっすらと赤くなっている真希を見たら、そんな理屈もありかと思えてくる。 それはやっぱり言葉には出来ないけれど、否定がないことで真希も満足したらしい。 来たとき以上に上機嫌になって、今日は徹底的に遊ぶぞ!と声高らかに宣言した。 結局は、真希は自分で持ち込んだゲームに熱中し、省吾はその間同じ部屋で静かに読書に励むという全く別々のことをしていたのだが。 それぞれ好き勝手にしながらも、たまに話して笑って、二人で過ごして。 こんな時間も悪くないと、やっぱり心の中だけで省吾は思ったのだった。 07.11.05 せっかく家が近所の幼なじみという設定なんだから、互いの家での話でもと思ったのです。 ちなみに土曜日に限らず、真希は省吾の家に入り浸ってます(笑) |