火曜日。 恭平×拓弥の場合





悔しいから、あまり言いたくはないんだけど。

「―――・・・腹減った〜」


できるだけ食事は一緒に摂ろうというのが二人の約束だが、仕事やバイトですれ違うことも良くあるし、それは仕方のないことだ。
だけど、今日はバイト先の喫茶店は定休日。
恭ちゃんもそれを承知しているから、うまいこと仕事を切り上げて早めに帰ってくることが多い。
だから大抵火曜日は友だちとも遊ばずに、まっすぐ帰ってきてしまっている。
別に少しくらいは遊んできたって良いのだけど、今週はそんなに忙しくないって言ってたから、いつも以上に帰りも早いのかと思ったのだ。
さっさと帰ってきたのは俺の勝手だけど、こんなことなら遊んでくれば良かったかななんて思ってしまう。
夕飯はどうするのかなとメールしてみたけれど、それの返事はない。
接待とか飲み会とかだったらご飯はいらないよな?
でもそれならそうで、いつもなら連絡してくれる。
となると、やっぱり仕事が延びてるんだろう。メールもできないくらい忙しいのかな。
ご飯を食べる余裕はあるのかないのか。忙しくてもおにぎりくらいはつまめるか?
高校生の身としては、そこら辺の想像もうまくできない。
結局食べてきてないときのことを考えて、あとは暖めるだけの料理を何品か作っておき、今に至る。

もう先に食べちゃおうかな・・・
ちらりと時計を見れば、9時を少し過ぎた辺り。
腹の虫はかなり限界を訴えているけれど、ここまで待ったのなら一緒に食べたい。
何か軽くつまもうかとも思ったけど、今何か胃に入れたら絶対もう我慢できなくなる。
「何か俺、主婦みたい」
自分の言葉にちょっと照れて、そのまま机に突っ伏す。
明かりもテレビもついているけれど、どことなく寂しいのは一人だからだろうか。

・・・帰ってこない、なんてことはないよね?

ふいに押し寄せる不安。
何かあったとか・・・帰ることを嫌がってるとか。
―――・・・あ、ヤバい。
思ったときには、視界がぼやけてきている。
必死で堪えていると、カチャリと静かにドアが開く音が聞こえてきた。
「ただいまー、悪い遅くなった」
待ち人の登場に、思わず駆け寄って抱きついてしまう。
「っと、拓弥?」
「・・・・・・遅いよ」
「悪い。仕事ちょっと長引いたうえに、電車止まっててさ。そんなときに限って、携帯も忘れて持ってなくて」
「なんでそんなに間が悪いのさ」
今、顔をあげたら目が赤いのがバレてしまうだろうから、胸に頭を押し付けたまま恨み節を投げつけてやる。
きっと恭ちゃんのことだから、俺の気持ちなんてバレバレだろう。
事実、謝りながら頭を優しく撫でてくれる。そんなことされたら、すぐに怒りも不安も消えちゃったけど。
「・・・バツとして、恭ちゃんがご飯用意してよね。俺もうお腹空いて倒れそうなんだから」
勢いよく離れながら言えば、ハイハイって苦笑い付きの返事。

いつもより大分遅くなってしまったけれど、二人での楽しい夕飯はそれから10分後には始まった。






07.10.30




   拓弥のバイト時間は大抵17時〜21時なので、バイトのあるときは一緒に食べられません。
   先に恭平が帰ってた場合は恭平は一人で食べちゃって、拓弥が食べるときは一緒にいてあげてます。
   川崎家時代から食事はみんなそろってが習慣でしたが、恭平は過去に負い目もあるので特にこだわってます。
   と、まあ実はLimit連載時からそんな裏設定があったのですが、やっと書けて満足です(笑)





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