金曜日。 塚原×津山の場合 |
「おい津山、今日飲み行くぞー」 もうすぐ終業時間になろうかという時、飲むことが何より大好きな先輩・田中が楽しそうに誘いをかけてきた。 「あー・・・今日は、やめときます」 「そう言うなって。今日は花金だぞ!」 「表現古いッスよ、田中さん」 「40代をなめんな。あ、塚原は来るって言ってたぞ。お前も参加するって言ったら」 あのバカは金がないといつも騒いでるくせに、どうしてこうも簡単に釣られるのか。 訊けばきっと、「だって津山さんが来るって聞いたから」と当然のように答えるだろう。 同じ手で何度も騙されてるくせに、なんで学習しないんだか。 知らねぇぞ、俺は行かないからな。あとで一人落ち込んでろバカ。 「まあそういうわけだから、津山も参加ね」 「や、だから俺は・・・」 「面倒見るヤツがいないとダメだろー?」 さも楽しそうに笑いながら、近寄ってきたときと同様に椅子を転がして次の獲物へと向かって行く。 結局断りきれない自分の性格を恨みながらも、酒でも飲まなきゃやってられねぇよなと溜め息をつく津山だった。 「さっさと歩け、バカ」 「痛いですよー、津山さん」 予想通りというか、何というか。 明日は休みなんだからと超絶ザルの田中は、ほどほどには飲めるが決して強いというほどでもない塚原を付き合わせて、結局潰すまでに至った。 「俺らはこれから朝までコース!」 なんて大騒ぎしながら、人に酔っ払いを押し付けてどこかへ行ってしまった先輩たちを恨みながら、津山は自分よりもでかい男を抱えて歩く羽目になっている。 朝まで付き合う気はなかったから、帰れたのは良かったのだけど。 それでも、つくづく自分は苦労性だと思う。面倒見が良いというより、貧乏くじを引くタイプ。 ・・・・・・考えてたら、悲しくなってきた。 「おら、ついた。カギ出せ、カギ」 「えーっと・・・・・・はい」 勝手知ったる他人の家。 毎度のことで、塚原の狭い部屋の構造なんてとっくに覚えてしまった津山は、とりあえず酔っ払いを布団へと投げ飛ばし、冷蔵庫から水を取り出す。 「津山さ〜ん・・・」 「んだよ」 「今日は泊まっていってください」 「ヤだよ。お前何しでかすか分かんねぇし」 「何もしないんで、側にいてくださいよー」 半分以上意識飛ばしてるくせに、何言ってんだか。 図体でかいくせに、捨てられた子犬のような目で必死に懇願してくる姿は、まあ可愛いと言えなくもない。 コレにいつも、騙される。どうも見捨てられないのだ。 どうせもう終電もないし、塚原もすぐに寝入ることは分かっているから、当然のように泊まっていく気ではあったが、それをわざわざ伝えてやるのも悔しい。 大体、何で俺はこんなに付き合いが良いんだろうかと、もう何度も繰り返した自問が頭に浮かぶ。 「津山さーん」 「あーうっせぇ。人の名前をバカみたいに連呼すんじゃねぇよ、バカ。さっさと寝ちまえ」 言いながら自分も横になると、塚原は子どもみたいに無邪気な顔で笑う。 「何もしないんで、ギュっとしても良いですか?」 「それがすでに、何かしてるってことだろうが。却下」 「少しくらい良いじゃないですかぁ」 「・・・帰るぞ」 「嘘です、ごめんなさい」 寝るのもったいないです〜なんて言っていた塚原が寝息を立てたのは、そんなやり取りを初めて5分も立たないうち。 相変わらず、酒が入ったときの寝入りのよさは凄い男だ。だからまあ安心して泊まれるってのもあるわけだが。 最近の、田中さんの言うところの花金は、大抵こんな感じで潰されている気がする。 これで良いのか、俺の人生なんて思わなくもないが、まあ悪くはないから良いのかもしれない。 正直、よくわかんないし、考えるのも今はダルイ。 とりあえず明日の朝になれば、きっとまた必死で今日の醜態を謝ってくるのだろう。 さて今回は何をしてもらおうか。 塚原にさせたいことを色々と考えながら、津山も目を閉じた。 07.11.03 津山さんは、ちょっと口が悪いけど、本当に面倒見が良い人だと思います。そんな君が好きだ(笑) この二人は漫才のような遣り取りが書いてて楽しいです。 |