十夜の晴日の場合 |
―――・・・なんか、身体が暖かい。というか、暑い。 それに妙に息苦しいし、身体のあちこちが気持ち良い・・・? 「・・・十夜?」 「あ、起きた?おはよう晴日」 どうにか瞼をこじ開けた先に、妙に爽やかな笑みを向けてくる義弟の姿。 何でここにいるのかと問う前に、チュっと軽くキスされる。 「・・・って何してんだっ!」 「何って、朝のお約束?」 「何がお約束だ、何がっ!」 覚醒すると同時に今の状況を把握して飛び起きようとするが、にっこりと笑ったままの十夜に阻まれる。 その十夜の手は晴日の脇腹と股間に伸びており、さらにわざとらしく動かしているのだか始末が悪い。 「てか離せっ・・・朝から盛るなよ!」 「バカだなぁ晴日。朝に元気なのは健康な男の生理現象だよ。起こしにきたら晴日もそうみたいだったから、優しい俺がお手伝いをしてあげただけ」 それの何が悪いの?と問われて、ああなるほどと素直に納得するバカはいないだろう。 当然晴日もふざけるなと叫びはするものの、何せ相手が悪い。 晴日を知りつくしている十夜は悪びれる様子もなく的確なポイントをついてくる。 ただでさえ寝込みを襲われている状況で、晴日の抵抗なんて十夜にとって微々たるもので。 「何が、手伝いだっ・・・んっ」 「ほら、我慢しない我慢しない。大丈夫だよ、父さんたちは仕事だし、朝子ちゃんも出かけちゃったから」 だから声だして、なんて耳元で囁かれるのに、晴日は半ば意地で堪える。 その姿に十夜は楽しそうに微笑んで、いっそう強く攻め立てる。 「強情だなぁ。そんな意地はってると、このまま最後までしちゃうよ?」 最初から途中で止める気なんてないくせにっ。 晴日の意思を無視して、どんどん進められる行為に泣きたくなってくる。 「い、・・・いい加減っ、離せっ!」 残った最後の理性を振り絞って、思いっきり腹を蹴飛ばしてやる。 不意打ちをくらってよろめいた隙に、ベッドの端へとどうにか逃げる。 「痛っ・・・ひどいな、晴日」 「ひど、酷いのはどっちだ!お前、隙あればすぐにちょっかいかけてきやがって!」 「だって晴日が側にいるから」 さらりと言われるのに、カッと頭に血が上る。 「んだよ、それっ!俺が悪いってのかよ?大体、お前はいつもいつも好き勝手に俺をっ・・・俺をなんだと思ってんだ!?」 一気に叫んで、息が上がる。 対して十夜は相変わらず涼しい態度のまま。 晴日が少し落ち着くのを待って、そっと手を伸ばして頬に触れる。 「誰よりも好きだよ」 「っ・・・」 「だから晴日が側にいるだけで触れたくなるし、触れたら止まらなくなる。晴日は違うの?」 「でも、だからって、こんな朝っぱらから・・・」 「夜は朝子ちゃんいるからって、3回に1回は逃げるのは誰だっけ?」 「う、それは・・・だって・・・・・・」 逆を言えば3回に2回はそのまま襲われているということなのだが、珍しい十夜の告白に動揺してる晴日は気が付かない。 「いつでもこうやって触れられる距離にいるのに、何もしないってツライと思わない?」 ね?と妙に真面目な顔で言われて、思わず頷いてしまう。 それに嬉しそうに笑ってみせて、そのままキスされて再び押し倒される。 何かうまく騙された気がする。 そう思いながらもされるがままの自分が悲しい。 抵抗する力もほとんどなくて、悔しいけどもうこのまま身を委ねてしまおうかと思ったとき、 「ただいま〜」 「・・・・・・・・・」 階下から聞こえてきた声に、言葉通り固まった。 「ああ、友だちとの約束は午後からって言ってたっけ」 晴日より断然早く立ち直った十夜は、名残惜しげに顔を上げて呟く。 「あれ、誰もいないの?おにいちゃーん?」 「残念だけど、仕方ないか。晴日、先に下降りてるからね」 妹にこの状況を目撃されるなんて天地がひっくり返っても許されないし、そんなことになったら絶対に耐えられないことだけれど。 もしかして兄たちを探して、この部屋に来てしまうかもしれないし、そうならないためにもまずは十夜だけでも先に出て行くべきだとも分かるけれど。 だからといって、ここまで高められた熱を放置されるというのも、正直ツライ。 「と、十夜・・・?」 「あ、一人でしちゃダメだよ。朝子ちゃんが出かけたら、今の分もあわせてたっぷり可愛がってあげるから」 思わず飛び出した縋るような声に返ってきたのは、どこまでも楽しそうな笑顔。 さらりと酷いことを告げて、目くらましになるために義妹のもとへと向かう。 残されたのは、熱い身体と、急激に冷えていく頭。 次に捕まったとき、一体どんな目にあうのか・・・考えるだけで恐ろしい。 「・・・絶対、逃げ出してやるっ」 ベッドから出られない状況で、晴日は一人決意を固めたのだった。 06.11.26 「日常」の一コマを考えたとき、この二人は真っ先にこの言い合いが浮かんできました。 この二人は毎回こんな感じ。晴日はとことん流されやすい子です(笑) 十夜もそこんとこ分かってるので、あの手この手で言いくるめます。 まあ最終的には問答無用ですが(笑) |