智と麻斗の場合





「もうさー、俺たち絶対ダメだと思うわけよ。毎月10日は絶対会ってたのに、今月は友だちと用事いれちゃったーとか言うんだぜ?これって、もう別れの時期ってことかなぁ?」
「・・・まあ、そんなときもあるでしょ」
「こんなこと初めてなんだって。それにさー、前は毎日電話してたのに、最近じゃなかなか出てくんねぇしよ」
「・・・・・・うん、ほら・・・疲れてるとか」
「1年も付き合うとダメなんかなぁ。ほら、付き合いが長くなるとさ、どうしても飽きてきたりするじゃん?マンネリっていうかさぁ」
「・・・・・・」
目の前でグダグダと愚痴をこぼす友人に、適当な相槌で付き合ってやる。
今日は長くなりそうだなと、未だに愚痴り続けている友人にばれないようにこっそりため息をついた。



「あー・・・疲れた」
予想通り、結局飲みにまで付き合わされて愚痴を聞き続けたのは、思った以上に疲れた。
初めの頃は毎日メールや電話をしてただの、どこそこに出かけていっただのと思い出話を聞かされる身にもなれと言ってやれない自分が悲しい。
どうにか宥めて、思ったよりも早く切り上げられた自分は褒めてやりたいけれど。
「毎日電話かぁ・・・」
智は元々電話もメールも苦手だったから、付き合い始めた当初なんて滅多にしなかった。
こっちは毎日でもしたいところだったけど、ウザいと思われるのも嫌で、2、3日おきにとか自分ルールを作ったりして。
たまに智の方からメールが来ると、それだけですごく嬉しかった。
「・・・変わるものだよなぁ」
携帯を開いて、1時間前の着信記録を見る。
『今日は友だちに付き合ってる』とメールを送れば、その後すぐに『ようやく今日の仕事は終了』という相変わらず簡潔なメールが返ってきた。
4月から社会人になった智とは、1年前と比較にならないほど会う時間が減った。
その代わりというように、ほとんど毎日仕事が終わると連絡をくれるようになった。
初めはメールで、次第に面倒だからって電話になって、今じゃ智の会社から最寄り駅までの10分間は電話タイムだ。
時には、家に帰ってからもまた電話をくれることもある。
大体たわいない話しかしないし、夜9時を過ぎると眠くなることが多い俺は、ひどい時には電話してる途中で俺が寝ちゃうんだけど。
それでも・・・以前の智だったら考えられないこと。
好きなときに会えなくなったのは寂しいけれど、こんな変化なら良かったかなと思う。
付き合い始めたときより今の方が電話やメールが頻繁だなんて言ったら、今日散々愚痴っていたあいつは怒り出すかもしれない。
「10時過ぎか・・・まだ大丈夫かな」
考えてたら、何だかすごく会いたくなってきた。
さすがに今から会うのは無理かなぁ・・・電話くらいなら平気だよな。うん。
勝手に理由をつけて、再び携帯を取り出して電話をかける。
1コール、2コール・・・・・・10コール目で、留守電に変わる。
「・・・・・・別に良いけどさー」
機械的な音声に携帯を閉じて、少しだけふて腐れる。
智が仕事の日に会えることなんてほとんどないし、昔は電話だってメールだって、毎日してなかった。
今だってどうしても話したいことがあるわけじゃない。
ないんだけど・・・―――
「ちょっとだけ、あいつの気持ち分かったかも」
いつの間にか習慣になってたことが、ちょっとだけいつも通りにならない。
それだけで苛々したり、不安になったり。今の俺は、友人の状態と変わらない気がする。
いや、智の気持ちが離れてないことだけは自信があるから、まだマシか。
言い訳じみたことを思いながら、ホーム内の柱に寄り掛かる。
電車は何本か着いては発車していくけれど、どうにも乗る気になれない。
この駅にいれば、まだ智に会おうと思えば会える、そんなことを思ってしまって。
あと1本、携帯をぼんやり眺めながら待ってしまう。
4本目の電車が到着するというアナウンスが聞こえてきたのと同時に、手の中で携帯が揺れた。
ディスプレイに表示される名前は、待ちわびた人のもの。
『ごめん、外で夕飯食べてた。もう家ついた?』
こんな風に、少し慌てて電話をかけてきてくれるのも、嬉しい。
「ううん、まだ駅。ちょっと寄り道してて。智こそ、もう家についちゃう?」
『俺も駅。乗り換える前にご飯食っちゃおうと思ったから。・・・まだ駅にいるならさ、少しくらいなら会える?』
こんな風に、俺の思ってることを先に言ってくれちゃうのも、昔ならなかったこと。
付き合いが長くなって、多少マンネリ化もそりゃしてるけど、それ以上に智からの意思表示が多くなったことが大きな変化。
そのことに気が付いたら、毎日のたわいない電話もすごく幸せな時間だってことに気が付いた。
智のことが好きだっていう気持ちも、変わらないどころか大きくなってることにも。
「うん。結構飲んだからさー、すごい人恋しかったんだよね、俺」
正しくは、付き合い程度しか飲んでないし、智が恋しかったんだけど。
智に比べて、俺は相変わらず素直になれない。
『じゃあすぐ行くから、東口で待ってて』
そんな俺に気が付いているのかいないのか、電話の向こうで少しだけ笑って、通話は切れた。
どうせならこのまま電話したままが良かったのに。
なんて思うけれど、この辺は相変わらず智らしいよなと一人笑みを浮かべてしまう。
あと5分もすれば、どうせ会えるんだし。
4本目の電車が出発するのを尻目に、妙に浮かれた気持ちで智が待つ東口へと走り出した。







06.10.28




   麻斗ひとり語り。智なんて電話口にしか出てきてません(笑)
   この二人はホント、のんびりというか問題がないというか・・・結局、仲良しさんです。
   ちょっとずつ二人で良い方向に変化していくのって、素敵だと思うのですよ。
   そんなことをぼんやり思って出来たお話です。結果的には、とりとめない話になっちゃいましたけれど。
   それにしても、相変わらず携帯関係の話ですね。変化なし。あれ、おかしいな?(笑)





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