恭平と拓弥の場合





目を開けると、目の前に飛込んできた大好きな人の寝顔。
―――・・・そういえば、昨日は恭ちゃんの部屋にお泊まりしたんだった。
一瞬だけ驚いたけれど、規則正しく上下する胸をぼんやりと見ながら、昨日のことを思い出す。
昨日は何だか一人でいたくなくて、夜中にそっと布団に潜り込んだ。
熟睡しているとばかり思っていた恭平はすぐに気がついて、昔みたいにそっと優しく頭を撫でてくれた。
・・・・・・ついでに、そのままいただかれちゃったけど、それも、まあ・・・嫌じゃないから構わない。
それでも妙な不安は消えて、身体のダルさも手伝ってか随分ゆっくり休めた。
そんなことまで計算しての行動か、ただ本能の赴くままの行動かは分からないけど、昨日の拓弥にとって効果的だったのは確か。
・・・よく寝てる、よね?
起きちゃうかなとは思いつつ、静かに己の耳を恭平の胸にあてる。
トクントクンと聞こえてくる鼓動に、ただそれだけで安心する。
これほどまで効果のある安定剤は他にないだろう。
なのに、今日はまだどこかに不安が残ってる。
それが何なのかは、自分でよく分かってる。
そして、この不安だけはきっと消えないと言うことも。
「・・・いつまでいられるかなぁ」
規則正しい音は、まだ近くにいることを教えてくれる。
でも、もし失くしてしまったら・・・俺はどうなってしまうんだろう?
その時、ポンと軽く頭に手が置かれる。
ビクリと身体に緊張が走り、慌てて身を起こそうとするが、少しだけこめられた手の力が許さない。
やっぱり起こしてしまったらしい。
いつから起きてたのか、さっきの言葉は聞かれてしまったのか、グルグルと様々な思いが回る。
だが、恭平は何も言わずに頭を撫でるだけ。
その優しい動きに涙が出そうになるのを、拓弥は必死で堪えた。
「・・・大丈夫」
「え?」
「俺はどこにも行かない」
「・・・っ」
なんで、分かっちゃうんだろう。
思えば昔からそうだった。
不安を表に出す前に気が付いて、拭い去ってくれた。
一人の夜は慣れていたはずなのに、いつの間にか怖くなったのは・・・恭平が側にいなかった、あの時期から。
いつか終わりがあるんだと知ってから、一人になるのが怖くなった。
「まだ時間あるな。起こしてやるから、もう少し寝ろ」
そっと回される腕。
温もりに促されるように、拓弥は素直に目を閉じた。

次に目が覚めたら、きっといつもの優しい笑顔で「おはよう」って言ってくれるだろう。
そしたら俺も「おはよう」って返して、一緒にご飯食べて。
行ってきます。
おかえり。
おやすみ。
いつもの何気無い挨拶を、ずっと交していたい。
不安はやっぱり完全には消えないけど。
大丈夫。
まだここにいるから。
まだ側にいてくれるから。
この温もりがあるうちは、大丈夫・・・―――



翌日。
「恭ちゃんのバカっ、何で起こしてくれないのさ!」
「だって気持ちよさそうに寝てたから、起こすの可哀想かなぁって」
「起こしてくれない方が可哀想だよ!今日は朝からバイト入ってるのにー!」
「ああ、大丈夫。電話したら、宮崎が代わりに入ってくれるって言ってたから」
「・・・・・・誠一さん、今日デートだって喜んでなかったっけ?」
「そうだったか?」
恭平の大したことでもないという様子に、ガックリと項垂れる。
この後、乱入してきた誠一に拓弥がひたすら謝りとおしたのは、また別の話。







06.12.02




   時期としては、「Always」よりちょっと前の話です。
   「日常」とはちょっと違うけれど、書きたかった部分なので便乗。
   ちなみに、最後の余談は、この二人の日常には誠一さんが大きく関わってきてるよなぁという思いから。
   こんなとこでも可哀想な役でごめんね、と心の中で誠一さんに謝っておこうと思います(笑)





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