智と麻斗の場合





「じゃあ10日はどう?授業入ってなかったよね?」
「あ、悪い。俺、これから毎月10日はダメ」
「……何で?」
「その日はさ、彼女と付き合い始めた記念日なのさ。だから毎月10日はデートしようってことになっててさ♪」
「……あ、そう……」
浮かれた表情で語る友人に、とりあえず頷いておいて、話を続ける。
まるで月命日みたいだな、と思ったことは言わないでおいた。


「付き合い始めた記念日かぁ……」
今日もデートなのだという友人と別れた後、先ほどの友人の言葉を思い出す。
毎月やりたいとは思わないけれど、ああやって騒げるのはちょっと羨ましくもある。
元々イベントは好きな方だから、なおさら。
「……でも、智はそういうの好きじゃないだろうしなぁ」
そもそも、俺たちの場合はいつが”付き合い始め記念日”なのかも明確じゃない。
無理やり定義づけるならば、もうすぐ1年目ということになる。
「っていうか、いつから付き合ったって言えるんだ?」
一般的には、どっちかが告白してOKってことで成立した日、なんだろうけれど。
告白……と、言えないしな。あれ。
自分たちが付き合うきっかけになったであろう出来事を思い出しながら、麻斗は溜息をついた。





結局、智に確認することも出来ずに一人で悩んでいると、智の方からメールが入った。
『18日、会える?』
その日はちょうどバイトも入ってなかったから、すぐに会えるって返事して。
ふと気づく。
その日がちょうど、俺が考えてる”1周年”の日だということに。
「智も同じこと考えて……ってことは、ないか」
期待するだけ違ったときに悲しくなるし、そうじゃなくても会えるなら嬉しいことには変わりない。
だから、智が何も考えてなくても、全然構わないんだけど。
「……やっぱり、伝えたいかな」
智と付き合えて、本当に幸せだってこと。
いつもは照れて言えないけれど、こんな日なら伝えられるんじゃないだろうか。



そして迎えた当日。
決意したは良いけど、結局言い出すことも出来ずに時間だけが過ぎていく。
少しずつ焦り始めた頃に、智がふいに口を開く。
「ここで、俺たちの関係が変わったんだよな」
「え?」
「ホントに今日か少し迷ったんだけどさ。でも、やっぱ今日が特別な日だと思って。そしたら麻斗には会いたかったんだよね」
「智……?」
少し照れくさそうに話す智に、鼓動が上がる。
ねえ、智。それって、もしかして……?
「1周年おめでと。忙しくて何も用意できなくて悪いんだけど……」
気まずそうに苦笑する智に、慌てて首を振る。
だって、智も同じことを考えてくれてたの?
今日が特別な日だって、思ってくれてたの?
それだけで、どんなに嬉しいか。分かってくれるだろうか?
「智、あのさ……これ、あげる」
慌てて取り出した、小さな封筒に入れた、名詞よりも小さなカード。
あの日、口では言い出せないと思って、慌てて買いにいったもの。
そこに書いた、短いけれど、ありったけの想い。

『1年がすごく早く感じたよ。智と一緒にいるだけで、幸せです。なので、これからもよろしくね』

それを見た智は、嬉しそうに笑って、それからぎゅっと抱きしめてくれた。
「あの時、ちゃんと言えなかったけど……大好きだよ、麻斗」
1年前、同じ場所で。
俺は、あの時以上の幸せを噛みしめて、「俺も」と応えた。







05.10.28




   まずは王道ネタ(そうか?)で、付き合った記念日。麻斗が乙女です(笑)
   この二人は付き合い始めに色々あるのですが、それはまた別の話で書きたいと思います。
   ちなみに、冒頭に出てきた麻斗の友人の話。私のバイト仲間が同じよなことやってます。
   毎月同じ日にその理由でバイトを休むんですよ。最近ではシフトに最初から名前なし。
   バイト連中ではその日のことをホントに「月命日」と呼んでおります(笑)<ひでぇ
   や、別に否定する気はまったくないんですけどね。





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