誠一と泰成の場合





あの人のことを好きなのは本当。
だけど、素直になれない性格は、そう簡単に治るものではない。

「……どうしよう」
今日何度目か分からない言葉とともに溜め息をつく。
何で僕がこんなに悩まなきゃなのかとも思うけど、勝手に悩んでるわけだから仕方ない。
素直になって一言伝えるだけ、そんなに勇気のいる言葉でもない。
問題は、それをどう伝えるか。
悩みに悩んで、取った行動は結局……


「え?恭ちゃんの誕生日?」
「はい。拓弥くんは恭平さんの誕生日、どう過ごしたのかなと思って」

……人の意見を参考にする。
これしか思い付かなかった自分が、少し情けない。
「えっと、恭ちゃんの誕生日は大分前ですよ?」
「いえ、ちょっと興味が沸いて……」
不思議そうに言われるのに、苦しい言い訳をする。
「そんな特別なことはしてないですよ?えっと……とりあえず日付変わった瞬間におめでとう言って、その日は恭ちゃん仕事だったから夜になってから二人でお祝いして……―――」
……一生懸命話してくれるのは良いが、だんだんノロケになってきているのは気のせいではないだろう。
自分で訊いておきながら、少し後悔する。
「あの……ありがとうございました。もう良いですよ」
「そうですか?でも、宮崎さんからだったら誠一さん何でも喜ぶんじゃないかな?」

―――………は?

「え、だってもうすぐ誠一さん誕生日ですよね?それで悩んでたんじゃないんですか?」
さらっと言われたことがすぐに理解できず、多分相当間抜けな顔をしたのだろう。
拓弥くんの方が慌てて言葉を足すが、それこそまさしく大当たりで……何も言えなくなる。
「えっと……いや、別に先輩がどうとかじゃないんですけど……」
とりあえず苦しい言い逃れを試みるが全く通用しなかったらしい。
「こういうのは難しく考えないのが一番みたいですよ」
恭ちゃんの受け売りだけど、とにっこり笑われるのに、笑みを返すのがやっとな状態。
4つも年下の少年に何言われてんだと思わなくもないが、その言葉だけは頭に残ってしまっているのだから……もっと情けないのかもしれない。




「難しく考えない、か」
そう言われても性格は変えられず、結局何も用意できぬまま、すでに前日。
しかも後10分もすれば日付が変わるという状況だ。
明日は平日で、バイトも入ってないから、このままだと会うことも不可能だろう。
今からプレゼントも用意できないし、他にできることと言ったら……?
ふと目についた携帯。
時刻はちょうど0時を指した。

『……泰成?どうした?』
2コール目で聞こえてきた声に、動悸が激しくなる。
「ごめんなさい、あの、ちょっと言いたいことがありまして……」
こんなに緊張するほどのことか?と頭のどこかでは思うが、体に妙に力が入って、何だか喉まで渇いてくる。

「た、誕生日…おめでとうございます……」

『……泰成、今家か?』
しばらくの沈黙の後、突然質問され訳の分からぬまま答える。
『じゃあ今から行くから。待ってろよ』
「えっ、今からって……明日仕事でしょう!?」
告げられた言葉に本気で驚いて訊くが、相手はまったく気にした様子もない。
『こんな俺を喜ばすようなことをしたお前が悪い。今日は誰よりも先にお前に会いたいからな。いいか、今すぐ行くから待ってろよ!』
「あ、ちょっ……」
一方的に切られた電話にしばし呆然として。
それから少なくとも喜んでくれたことに、こんなのでも良かったのかとホッとする。

そして、しばらくして訪れた恋人に、抱きしめられて。
珍しくもひどく素直な気持ちで、もう一度「おめでとう」と伝える。
返ってきた満面の笑みに、何だか安心して、腕の中でそっと目を閉じた。







05.11.01




   ラストは王道、誕生日でv
   各キャラの正確な誕生日とか決めてないんですが、誕生日話は他のキャラでも書いてみたいです。
   それにしても素直じゃない宮崎さん。彼がちょこっと素直になる、というシチュエーションが好きみたいです、私(笑)
   ただ彼は一人で悩みまくる性質なので、誠一さんの出番が減るというのが問題なんですけどね。





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