恭平と拓弥の場合





「今度の土日、実家に顔出そうと思うんだけど、拓弥も行くか?」
「もちろん!久しぶりにおじさんたちにも会いたいし」
「じゃあ母さんに連絡しとくよ」

そんな会話をしたのが、5日前。
向かう電車の中から妙にドキドキして、久しぶりに見る景色にも何故だか興奮した。


「拓弥くん、会いたかったわ!元気にしてた?少し背が伸びたんじゃない?」
「お久しぶりです、おばさん」
「って、俺には挨拶なしかよ」
出迎えてくれた恭ちゃんのお母さんに挨拶して、高校生活の話とか訊かれるままに話して。
部屋に行っていた恭ちゃんが戻ってくるまで、二人で盛り上がっていた。
「あら、恭平どこ行くの?」
「買い物」
「あ、俺も行く!」
「じゃあついでに牛乳も買ってきて。行ってらっしゃい」
ちゃっかり買い物まで頼まれつつ、俺は慌てて恭ちゃんの後を追った。


「拓弥は特に買うものはないのか?」
「うん、別に」
ついてきたのも、ただ恭ちゃんと一緒に行きたかっただけで、特に目的があったわけじゃない。
毎日一緒にいるのに、少しでも離れたくないなんて……我が侭なのかな、俺。
「……懐かしいな、ここ」
「え?」
ふいに呟かれた言葉に、視線の先を見てみる。
そこには、見覚えのある、小さな公園。
「ここで、小学生だった拓弥を見つけたんだよな」
懐かしそうに目を細めて。
微笑んで、それから少しだけ辛そうな表情を見せる。
そう、確かにここだ。
あの頃は、家に帰っても誰もいなくて。
一人でいたくなくて、よくこの公園のブランコに座っていた。

”おい、小学生。何やってんだよ、こんなトコで”

突然かけられた声。
それが救いの声だなんて、あの時は思いもしなかったけれど。
「……ねえ、恭ちゃん。あの日、何日だったか覚えてる?」
「ん?夏の終わりだったから、9月の頭かな。さすがに日にちまでは覚えてないけど」
そうだ、日が落ちるのが早くなったなんて、ぼんやり思ったのを覚えてる。
辺りが暗くなってきても、家に帰る気にならなくて。
そうしたら、中学生の恭ちゃんが通りかかって、連れて行ってくれたのだ。
「日にち、覚えておけば良かったな」
「何の?」
「恭ちゃんが、俺を見つけてくれた日の」
あの日、あそこで出会ったから。
恭ちゃんが、俺を見つけてくれたから。
俺を、連れて行ってくれたから。
……だから、今の幸せがあるんだと、心から思う。
「俺にとって、すごい特別な日なのに。何のお祝いもできないの、悔しいじゃん?」
本気で思っての言葉だったのに、何故か恭ちゃんには笑われて。
何だよと少し不貞腐れてたら、ポンと頭を撫でられた。
「恭ちゃん……?」
「確かに、あの日は特別な日だよ。何てたって、拓弥と初めて会った日なんだから」
「……」
「正確な日にちは覚えてないけどさ。でも特別な日だって思ってれば、それでいいんじゃないかって俺は思う」
「……うん。そうだね」
恭ちゃんにとっても、特別な日。
そう言ってくれるのが、とても嬉しくて。
悲しい気持ちばかりが詰まったこの公園も、今はすごく幸せな気持ちで見ていられる。
「それに……」
「……?」
「これからはずっと一緒なんだから、記念日なんてどんどん作っていけば良い。な?」
少し照れくさそうに告げられた言葉。
それに込められた恭ちゃんの想いまで伝わってきた気がして……涙が出そうになった。



出会えたのは、人生最高の奇跡。
その日は、忘れることの出来ない特別な日……







05.10.29




   里帰り編。ただ想い出の場所で回想して欲しかったというものです。
   この二人の場合は、共通の想い出が多いのでね。そして過去話が好きなので(笑)
   二人は出会いがホントに偶然なので。その辺も、また書いていきたいところです。希望として。
   あ、ちなみに「記念日」は「特別な日」というイメージが強いです。だから記念なんでしょ、って話ですが(笑)





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