秋良と和宏の場合





それは渚の唐突な質問から始まった。
「何で仲良くなったの?」
「え?」
「だから秋良と相田くん。同じクラスだけどあんまり接点ないじゃない?なのに何であんなに仲良くなれたのかなって」
片や、女子にモテモテのどちらかと言えばクラスの中心で騒いでいるタイプ。
片や、読書が好きな大人しいタイプ。
なのに、何故か気が付くとよく一緒にいた。
別に一緒になって騒いでるわけではなかったが……周りが不思議に思っていたのは確か。

「えっとね、僕が放課後に教室で本読んでたら、忘れ物した柘植が来てね。そこで初めて話したのがきっかけかな」
それまでは、挨拶すらしたことがなかった。
だから柘植が教室に入ってきたときも、すぐに出て行くだろうと気を抜いていたのだが。
”相田って、いつも本読んでんのな。面白い?”
突然話しかけられて、ひどく驚いて。
”う、うん、面白いよ。何かね、知らない世界に行ったみたいな感じで、わくわくするし。あ、ドキドキかな? んと、よく分からないけれど、面白いよ!”
何だか焦って、一息で訳の分からぬ説明して。
変なこと言っちゃったかなと、ちらりと柘植を見れば、きょとんとした顔。
急に恥ずかしくなってきて、思わず俯けば、ふいに柘植が笑ったのだ。
”相田って、意外と面白いのなー”
ホントに楽しそうに笑うのに、ますます顔が赤くなるのを感じて。
でも、それ以上に初めて間近で見る柘植の笑顔に、ドキリとしたのだった……

「それからね、何でか分からないけど柘植の方から話しかけてくれるようになったんだ」
初めて会話した翌日から、ちょっとしたことで話しかけてくるようになった。
挨拶だけの日もあれば、部活の話なんかをすることもあった。
初めのうちは戸惑いつつ応えていたけれど、いつしか一緒にいるのが自然になってきて。
”和宏”と名前で呼ばれるようになった頃には、僕はもう柘植を好きになってた。

「案外きっかけってそんなものよね……。秋良も結構強引なとこあるし。大変だったでしょ?」
「でもね、それ以来学校来るの楽しくなったし。土日や祝日がつまんなく思えるくらい」
「秋良に会える日が祝日だったわけね」
「そうそう。それで、話せた日は大安吉日、ラッキーデー」
大塚さんの言葉にからかいが含まれてるのは気がついたけれど、本当のことなので笑って応える。
「はいはい、ごちそうさま」
大塚さんも、そう肩をすくめてはいたけど、顔は笑ったままで。
こういう風に話せるが嬉しくて、僕はまた笑ってしまう。
でも、本当にあの頃は、柘植を見ているだけで楽しかった。
好きだって自覚してからは、なおさら。
柘植の彼女の話とか聞くのは、少し辛かったけれど……それでも、話ができるのが嬉しかった。


「和宏、お待たせ!…って、何でまた渚がここにいるんだよ?」
「暇だったから、仲良くお話してただけよ」
「俺がいない隙に……和宏、渚なんて放っておいて帰ろうぜ!」
教室に入ってきた途端に騒がしくなるのに、思わず僕も大塚さんも苦笑してしまう。
それに、さっきまで柘植の話をしていたから、少し照れくさい。
「あ、そうだ、秋良。あんた、何で相田くんとよく一緒にいたの?まだ友だちだった頃」
「は?何だよ、いきなり」
「だって気になったんだもの。ねぇ、相田くん?」
「え、う、うん」
思いがけない展開に驚いているうちに同意を求められ、思わず頷いてしまう。
すると、柘植も少し考えてから、照れくさそうに口を開いた。
「あー……何つーか、一緒にいると落ち着けたんだよな。心地よいって言うか。他の連中には言えないことも、和宏相手には素直に言えたし」
「柘植……」
「あーっ、ほら帰るぞ和宏!先出てるからな!」
「え、ちょっと待って。えっと、ごめんね大塚さん。また明日」
スタスタと先に行ってしまうのに、慌てて後を追おうと立ち上がると、「相田くん」と後ろから呼び止められる。
「今日も祝日?」
にっとした笑みとともに言われた言葉に、一瞬戸惑って、すぐにその意味を知る。
「うん、それも特別なね」
だって、友だちだったあの頃、柘植がそんな風に思っていてくれたなんて想像もしなかったから。
それを柘植の口から聞けたなんて、嬉しくないわけがない。
きっとすぐのところで待っているだろう柘植を追いかけるため、ますます笑みを深めた大塚さんに別れを告げた。







05.10.30




   柘植がほとんど出てませんが(汗)どうも和宏と渚ちゃんのコンビは好きです。書きやすい。
   無理やり記念日とこじつけた感じですが、まあそれはどの話も同じなのでご容赦ください<待て
   「会えた日は祝日」っていう言葉が使いたかったんです(笑)あと二人の出会いも。
   しかし、どうして私の書く受けは、みんな乙女思考なのだろう・・・<自分のせいだろう
   




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